「入院費を後日支払うと約束したまま、連絡が取れなくなる患者様が一定数いらっしゃるのは、病院経営にとって非常に深刻な問題です」。そう語るのは、地方の総合病院で15年以上会計事務に携わっている田中さん(仮名)です。田中さんへのインタビューを通じて、医療機関が「後日払い」の期限をどのように設定し、それを過ぎた場合にどのようなステップを踏んでいるのかという内幕が見えてきました。田中さんの病院では、原則として退院から10日以内を支払い期限として案内しています。しかし、期限を1日過ぎたからといって、すぐに厳しい督促を行うわけではありません。「まずは、お忘れではありませんか、というニュアンスで2週間後にお電話を差し上げます。体調が悪くて外出できなかったり、振込の手間が取れなかったりする事情もあるからです」と田中さんは語ります。しかし、退院から1ヶ月、つまりレセプトの月次処理が完全に終わる時期を過ぎても入金がない場合は、事務的な対応から「管理的な対応」へとフェーズが変わります。具体的には、配達証明付きの督促状を送付し、それでも反応がない場合は、連帯保証人への連絡が行われます。田中さんは、支払いが遅れること自体よりも「連絡が取れないこと」が最大の懸念事項だと言います。もし「いついつまでには必ず払える」という明確な意思表示があれば、多くの病院では分割払いや支払い猶予の相談に柔軟に乗ってくれます。しかし、誠意が見られない場合は、最終的に債権回収を専門とする法律事務所に案件を委託することになり、そうなれば患者側の信用にも傷がつきかねません。また、田中さんは「後日いつまでという期限は、実は保険診療のルールとも密接に関わっています」と指摘します。健康保険を使って3割負担で済ませるためには、病院が正しく保険請求を行う必要がありますが、患者の支払いが極端に遅れると、その整合性を保つのが難しくなるケースがあるからです。入院費の後日払いは、病院が患者を信頼して成立している「善意のシステム」です。その善意を裏切らないためにも、もし期限を守れない事情が生じたならば、恥ずかしがらずに窓口へ一本の電話を入れること。その一言があるだけで、病院側の対応は驚くほど優しく、建設的なものになるのです。