顔面神経麻痺の診療に30年以上携わってきた専門医、山中教授(仮名)へのインタビューを通じて、この疾患における「診療科選び」の切実な実態が明らかになりました。教授が最も強く訴えるのは、一般の方々の間にある「診療科のミスマッチ」がもたらす悲劇です。インタビューの冒頭、山中教授は厳しい表情でこう切り出しました。「顔が動かなくなったとき、眼科に行ってしまう人が非常に多いのです。目が閉じないから目が悪いのだという思い込み。しかし、眼科では顔面神経の治療はできません。点眼薬を処方されて数日様子を見ている間に、神経の変性は一気に進み、取り返しのつかない段階に至ってしまうケースが後を絶ちません」。教授によれば、顔面神経麻痺は「一刻を争う内科的緊急症」としての側面を持っています。耳鼻咽喉科を受診すべき最大の理由は、その科が「外科的介入(顔面神経減荷術)」という最終手段までを視野に入れている唯一の場所だからです。神経の圧迫があまりに激しく、薬物療法で効果が得られない場合、骨を削って神経を解放する手術が必要になりますが、この判断ができるのは耳鼻咽喉科医だけです。また、診療科選びの真実として、「脳神経内科」との連携についても言及されました。「脳の検査が必要なのはもちろんですが、脳神経内科でのMRI検査に時間を取られすぎて、耳鼻科でのステロイド開始が遅れるのは本末転倒です。理想を言えば、最初から耳鼻咽喉科を受診し、そこで末梢性であることを確認した上で、必要に応じて脳の精査を行うのが、医学的に最も効率的なルートです」。山中教授は、患者さんが受診の際に医師に確認すべき「問い」についてもアドバイスをくれました。「自分の麻痺は柳原法で何点ですか?」「ステロイドの投与量はガイドラインに沿っていますか?」と尋ねることで、その診療科が最新の知見に基づいた管理を行っているかを見極めることができるそうです。顔面神経麻痺は、治療が遅れれば「ワニの涙」や「共同運動」といった、一生消えない不快な後遺症を残します。食事のたびに涙が出たり、目を閉じようとすると口が動いたりする現象は、神経が誤った方向に再生されてしまった結果であり、これらを防ぐためには初期の耳鼻咽喉科での強力な治療が不可欠です。インタビューを終え、強く印象に残ったのは「顔を救うことは、その人の人生の尊厳を守ることである」という教授の信念でした。自分の顔に異変を感じたら、診療科の名前を間違えないこと。その一瞬の判断が、1年後の自分の笑顔を守るための最大の分岐点となるのです。