私が経験したことのない顔の痛みに初めて襲われたのは、52歳の冬のことでした。朝、歯を磨こうと歯ブラシを口に入れた瞬間、右の頬から上唇にかけて、まるで稲妻が突き抜けるような、鋭い痛みが走ったのです。痛みはほんの数秒で消えましたが、その衝撃はあまりに強烈で、私はしばらく洗面台の前で立ち尽くしてしまいました。最初は「虫歯か、歯周病が悪化したのだろう」と考え、かかりつけの歯科医院を予約しました。しかし、レントゲンを撮っても、歯や歯茎に異常は見当たりません。歯科医は「もしかしたら、神経の痛みかもしれませんね」と首を傾げるばかりでした。その後も、痛みは不意にやってきました。食事中にご飯を噛んだ時、冷たい風が顔に当たった時、ひげを剃ろうとした時。痛みを誘発する「トリガーポイント」が、右の頬にあるようでした。痛みの恐怖から、食事を摂るのも、歯を磨くのも、だんだんと億劫になっていきました。顔を洗う時も、そっと触れるだけ。常に「またあの痛みが来るのではないか」という不安に怯え、私の生活の質は著しく低下していきました。インターネットで「顔の片側 激痛」と検索し、私は「三叉神経痛」という病名を初めて知りました。そこに書かれていた症状は、私の経験とあまりにも酷似していました。そして、受診すべき診療科が「脳神経外科」または「神経内科」であることを知り、私は意を決して、脳神経外科のある総合病院のドアを叩きました。診察室で症状を説明すると、医師はすぐに三叉神経痛を疑い、原因を特定するために頭部のMRI検査を行うことになりました。検査の結果、私の三叉神経が、すぐそばを走る脳の血管によって圧迫されていることが判明しました。画像で痛みの原因がはっきりと示されたことで、私はようやく納得できました。診断名は「特発性三叉神経痛」。まずは痛みを抑える薬物療法から始めることになり、カルバマゼピンという薬が処方されました。あの激痛との戦いに、ようやく一筋の光が見えた瞬間でした。
大人のいちご舌、その原因は?考えられる病気とは
ある日、鏡を見て舌が真っ赤に腫れ、表面がブツブツとイチゴのようになっていることに気づいたら、誰でも驚き、不安になることでしょう。この「いちご舌(いちごじた)」は、舌の表面にある糸状乳頭(しじょうにゅうとう)が萎縮し、キノコのような形をした茸状乳頭(じじょうにゅうとう)が腫れて赤く目立つことで起こる症状です。子供の病気というイメージが強いですが、実は大人にも現れることがあり、その背景には様々な原因や病気が隠れている可能性があります。大人のいちご舌で、まず考えられる代表的な原因が「溶連菌感染症(A群溶血性レンサ球菌咽頭炎)」です。これは細菌感染症で、強烈な喉の痛みと38度以上の高熱を伴います。感染から数日後に、舌がいちご状になるのが特徴的な症状の一つです。大人が感染すると重症化しやすいため、喉の痛みや高熱と共にいちご舌が現れたら、速やかに内科や耳鼻咽喉科を受診し、抗生物質による適切な治療を受ける必要があります。次に、非常に稀ですが重篤な疾患として「川崎病」が挙げられます。主に乳幼児に発症する病気ですが、成人例も報告されています。川崎病は、全身の血管に炎症が起こる原因不明の病気で、いちご舌の他に、5日以上続く高熱、両眼の充血、唇の発赤、手足の腫れ、発疹といった症状を伴います。心臓の血管に後遺症を残す危険性があるため、これらの症状が複数見られる場合は、すぐに総合病院の循環器内科や膠原病内科を受診する必要があります。また、ビタミンB群、特にビタミンB12や葉酸の欠乏も、舌炎を引き起こし、舌が赤く腫れていちご舌のように見えることがあります。これは「ハンター舌炎」とも呼ばれ、悪性貧血などの病気が背景にある可能性も考えられます。その他、口腔内の乾燥(ドライマウス)や、義歯の不適合による物理的な刺激、亜鉛不足、あるいは何らかのアレルギー反応が原因となることもあります。このように、大人のいちご舌は、単なる口内炎から、治療が必要な感染症や全身疾患のサインまで、多彩な顔を持っています。安易に自己判断せず、症状が続く場合は必ず医療機関に相談することが大切です。
ある日突然、舌がイチゴに。私の溶連菌感染体験記
私が社会人3年目の冬、仕事の疲れがピークに達していた頃のことです。朝、目覚めると、喉にガラスの破片が刺さっているかのような、経験したことのない激痛がありました。熱を測ると39度近い高熱。インフルエンザを疑い、ふらふらの体で近所の内科クリニックへ向かいました。インフルエンザの検査は陰性で、「ひどい風邪でしょう」と解熱剤と抗生物質を処方され、その日は一日中ベッドで寝込んでいました。しかし、本当の異変はその翌日に起こりました。喉の痛みは相変わらずでしたが、口の中に何とも言えない違和感があるのです。鏡を覗き込んで、私は思わず息をのみました。自分の舌が、まるで熟したイチゴのように真っ赤に腫れあがり、表面には無数の赤いブツブツが浮き出ていたのです。そのグロテスクな光景に、私は強い恐怖を感じました。「これはただの風邪じゃない」。そう直感し、再び同じクリニックへ駆け込みました。医師は私の舌を見るなり、「ああ、これは典型的な『いちご舌』ですね。昨日の症状と合わせると、溶連菌感染症で間違いないでしょう」と診断を下しました。子供の頃にかかる病気だと思っていた溶連菌に、この歳でかかったことに驚きましたが、原因がはっきりしたことで、少しだけ安堵しました。医師によると、大人が溶連菌にかかると、私のように高熱や激しい喉の痛みを伴い、重症化しやすいとのこと。そして、いちご舌は、溶連菌感染症の回復期によく見られる特徴的な症状なのだと説明を受けました。治療としては、処方されていた抗生物質が溶連菌にも有効だったため、それを継続して飲み切ること、そして合併症を防ぐために、症状が治まっても10日間は必ず服用を続けるよう、固く念を押されました。舌のブツブツとした違和感と、喉の痛みはその後も数日間続きましたが、抗生物質のおかげで徐々に回復。一週間後には、舌も元の状態に戻り、無事に職場復帰することができました。あの真っ赤な舌の衝撃は、今でも忘れられません。大人の高熱と喉の痛みに「いちご舌」が加わったら、それは溶連菌のサイン。この経験は、私にとって重要な教訓となりました。
いちご舌で病院へ。何科を受診すればいい?
舌が赤く腫れ、ブツブツとした「いちご舌」の状態になった時、多くの人はまずその見た目に驚き、そして「この症状は、一体何科で診てもらえばいいのだろう?」と迷ってしまうことでしょう。いちご舌は、様々な原因によって引き起こされる一つの「症状」であり、その背景にある病気によって、受診すべき診療科は異なります。原因を特定し、適切な治療を受けるためには、いちご舌以外の症状に注目することが、正しい診療科選びの鍵となります。まず、いちご舌と共に、38度以上の高熱や、つばを飲み込むのもつらいほどの激しい喉の痛みがある場合。このケースで最も疑われるのは「溶連菌感染症」です。この場合は、まず「内科」または「耳鼻咽喉科」を受診するのが適切です。これらの科では、喉の診察や迅速検査によって溶連菌の診断を行い、原因菌に有効な抗生物質を処方してくれます。子供の場合は、かかりつけの「小児科」を受診しましょう。次に、いちご舌に加えて、5日以上続く高熱、目の充血、唇の発赤・ひび割れ、手足の腫れ、体に発疹が出るといった症状が複数見られる場合。これは、稀ではありますが、血管の炎症性疾患である「川崎病」の可能性があります。特に心臓に合併症を起こす危険性があるため、様子を見ずに、すぐに設備の整った総合病院の「小児科」(子供の場合)や、「循環器内科」「膠原病・リウマチ内科」(大人の場合)を受診する必要があります。舌の痛みや灼熱感が強く、舌以外の口内炎や、皮膚の乾燥、疲労感などが伴う場合は、ビタミン欠乏症や自己免疫疾患の可能性も考えられます。この場合は、まず「内科」で全身の状態を診てもらい、血液検査などで原因を探るのが良いでしょう。もし、舌の症状以外に特に気になる症状がなく、舌の状態だけが気になるという場合は、「口腔外科」や「歯科」で相談してみるのも一つの方法です。口腔内の専門家として、舌の状態を詳しく診察し、考えられる原因についてアドバイスをくれたり、必要に応じて適切な専門科へ紹介してくれたりします。このように、いちご舌の診療科選びは、付随する症状が道しるべとなります。自分の体のサインをよく観察し、最も適切な専門医の助けを求めることが大切です。