先生、まず一番の疑問ですが、ワクチンは本当に効果があるのでしょうか。「はい、効果は科学的に明確に証明されています。ただし、その効果を正しく理解することが重要です。ワクチンの一番の目的は、発症を完全に防ぐことよりも『重症化を防ぐ』ことにあります。インフルエンザは、肺炎や脳症などの命に関わる合併症が怖い病気です。ワクチンは、そのリスクを劇的に下げてくれます。これは、特に抵抗力の弱いお子さんやご高齢の方にとっては、計り知れないメリットです。健康な成人であっても、高熱で一週間も寝込むのと、軽い症状で済むのとでは、社会生活への影響が全く違いますよね。それを防ぐだけでも、接種の価値は十分にあると言えます」ワクチン接種でインフルエンザになる、という噂を聞くことがありますが。「それは完全に誤解です。日本のワクチンは、ウイルスの感染力をなくした『不活化ワクチン』です。ウイルスの死骸の一部を使っているようなものなので、接種によってインフルエンザを発症することはありえません。接種後に見られる発熱や倦怠感は、体が免疫を作っている過程での正常な反応であり、本物の感染症とは全く異なります」毎年、ワクチンの株が当たったり外れたりすると聞きますが。「確かに、ウイルスの流行予測が完全に一致しない年もあります。ウイルスがシーズン中に変異することもあるからです。しかし、たとえワクチンの株と流行株が完全に一致しなくても、ある程度の交差免疫が働き、重症化を防ぐ効果は期待できるとされています。予測が多少外れたとしても、接種しないよりは接種した方がはるかに有利であることに変わりはありません。打たない、という選択は、いわば無防備で流行に立ち向かうようなものです」最後に、読者へのメッセージをお願いします。「インフルエンザワクチンは、現在私たちが利用できる、最も安全で効果的な予防手段の一つです。インターネット上には様々な情報が溢れていますが、根拠のない噂に惑わされず、科学的な事実に基づいて判断していただきたいと思います。予防接種は、自分自身を守るためだけでなく、家族や社会といったコミュニティ全体を感染症から守るための、思いやりのある行動でもあります。正しい知識を持って、適切な時期に接種を受けることを強くお勧めします」。
専門医が語るインフルエンザワクチンの真実