30代の半ば、仕事が佳境に入っていたある秋の夜、私の体の中に異変が忍び寄っていました。最初は喉の奥に小さな棘が刺さっているような、かすかなイガイガ感でした。翌朝には37度5分の微熱がありましたが、私は栄養ドリンクを飲んで出社しました。これが大きな間違いでした。それからの3日間、熱は上がったり下がったりを繰り返し、4日目の朝、ついに私の呼吸器は反乱を起こしました。一度咳が出始めると、肺の中の空気をすべて絞り出されるまで止まらず、最後には嗚咽するような激しい発作に襲われるようになったのです。病院で「マイコプラズマ肺炎」と診断されたとき、私はどこか安堵していました。これでやっと効く薬がもらえる、と思ったからです。しかし、現実は甘くありませんでした。医師から処方された抗生物質を飲み始めても、熱こそ翌日に下がりましたが、あの狂おしいまでの咳は一向に引く気配がなかったのです。夜、布団に入ると胸の奥がムズムズと脈打ち、激しい咳き込みで1時間に1回は目が覚める日々。あまりの咳の激しさに脇腹の筋肉が悲鳴を上げ、寝返りを打つだけで激痛が走るようになりました。大人の肺炎がこれほどまでに孤独で過酷なものだとは想像もしていませんでした。職場には「肺炎なので休みます」と伝えましたが、電話口での自分の声が咳で途切れるたびに、周囲への申し訳なさと焦りが募りました。結局、会社を休んだのは2週間に及びました。その間、私が救われたのは加湿器の存在と、医師から勧められたハチミツの摂取でした。乾燥した空気は剥き出しになった気道の神経を直撃するため、湿度は常に65パーセント以上に保ちました。また、夜間に吸入ステロイド薬を使い始めてから、ようやく咳の頻度が減り、まとまった睡眠が取れるようになりました。1ヶ月が経過した頃、ようやく「普通の呼吸」を取り戻せたときの感動は今でも忘れられません。マイコプラズマ肺炎は、大人から当たり前の日常、すなわち「静かに息を吸える自由」を奪い去ります。この体験を経て、私は自分の体力を過信することをやめました。少しでも咳が続くなら、迷わず仕事を休み、専門の呼吸器内科へ行く。あの時、白くなった肺のレントゲン写真を見て感じた恐怖は、今の私の健康管理の原点となっています。もし今、熱は下がったのに咳が止まらずに苦しんでいる大人がいるなら、伝えたいです。あなたは怠けているのでも、風邪が治らない体質なのでもありません。体内でマイコプラズマというしぶとい敵が、あなたの気道をリフォーム中なのだと考えて、今は徹底的に自分を甘やかして休ませてあげてください。時間はかかりますが、丁寧なケアを続ければ、必ず健やかな呼吸は戻ってきます。