「病院へ行ったのに、ただの風邪としか言われなかった」「薬を飲んでも一向に咳が治まらない」。マイコプラズマ肺炎にかかった大人の多くが、このような経験をしています。この病気は、なぜこれほどまでに見逃されやすく、診断がつきにくいのでしょうか。その理由は、いくつかの要因が複雑に絡み合っているからです。第一の理由は、初期症状がごく普通の風邪や気管支炎と非常によく似ていることです。発熱、倦怠感、頭痛、そして咳。これらの症状だけでは、医師も初期の段階でマイコプラズマ肺炎と断定するのは困難です。多くの場合は、まず一般的な風邪としての対症療法や、細菌による二次感染を想定した抗生物質の処方から始まるのが現実です。第二に、この病気が「非定型肺炎」であるという特徴が挙げられます。通常の細菌性肺炎であれば、聴診器を胸に当てると特徴的な雑音が聞こえたり、胸部レントゲン写真で白くはっきりとした肺炎の影が映ったりすることが多いのですが、マイコプラズマ肺炎では、これらの所見が乏しいことが少なくありません。聴診では異常がなく、レントゲンを撮っても、ごく淡い影がうっすらと見える程度で、「肺炎としては典型的ではない」と判断されてしまうのです。そして第三に、確定診断に至るまでの検査のハードルがあります。マイコプラズマ肺炎を確実に診断するためには、血液を採取して特定の抗体の量を調べる抗体価測定や、喉の粘液や痰から菌の遺伝子を検出するLAMP法などの特殊な検査が必要です。しかし、これらの検査は結果が出るまでに数日かかることがあり、全てのクリニックで常に行えるわけではありません。このような背景から、最終的には、臨床経験豊富な医師が、患者の「頑固で乾いた咳」という特徴的な症状や、周囲での流行状況、そして一般的な抗生物質が効かないという経過などから、「マイコ”らしい”」と判断し、効果のある抗生物質を処方する「経験的治療」が行われることが多くなります。もし、あなたの咳が長引いているなら、診断の難しさを理解した上で、これまでの経過を詳しく医師に伝えることが、正しい診断への近道となります。