顔の片側に激しい痛みが起こる「三叉神経痛」ですが、その症状が他の病気と非常に似ているため、正確な診断を下すには、専門医による慎重な「鑑別診断」が不可欠です。鑑別診断とは、似たような症状を示す複数の病気の中から、問診や診察、検査などによって、最も可能性の高い病気を特定していくプロセスです。三叉神経痛と間違えやすい病気には、どのようなものがあるのでしょうか。まず、前述の通り、最も混同されやすいのが「歯の病気」です。三叉神経は上顎と下顎にも分布しているため、その痛みは虫歯や歯髄炎の痛みとよく似ています。多くの患者が最初に歯科を受診するのはこのためです。しかし、歯科治療で改善しない場合は、三叉神経痛を疑う必要があります。次に、「帯状疱疹(たいじょうほうしん)」、特に発疹が出る前の帯状疱疹です。水ぼうそうのウイルスが再活性化して起こるこの病気は、神経に沿ってピリピリ、ズキズキとした持続的な痛みを引き起こします。三叉神経の領域に発症すると、顔に痛みが出ますが、発作的な電撃痛である三叉神経痛とは痛みの性質が異なります。数日後に水ぶくれを伴う発疹が現れることで、診断が確定します。また、顎の関節やその周りの筋肉の異常で起こる「顎関節症」も、食事の際に顎に痛みを生じるため、混同されることがあります。しかし、顎関節症の痛みは、口の開け閉めや顎の動きに直接関連しており、クリック音(カクカクという音)を伴うことが多いのが特徴です。さらに、脳腫瘍や多発性硬化症といった脳の病気が、三叉神経を圧迫・障害することで、三叉神経痛と同様の症状を引き起こすことがあります。これは「症候性三叉神経痛」と呼ばれ、特に若い人に発症した場合や、顔の感覚麻痺などを伴う場合に疑われます。この鑑別には、頭部のMRI検査が極めて重要となります。これらの病気を正確に見分けるためには、痛みの性質(発作的か持続的か)、持続時間、誘発動作の有無、随伴症状などを、患者さん自身が医師に詳しく伝えることが大切です。そして、神経学的診察や画像検査の結果を総合的に判断できる、脳神経外科や神経内科といった専門医の力が不可欠となるのです。