顔の片側、特に頬や顎のあたりに激しい痛みが生じた時、多くの人が最初に疑うのは「歯」のトラブルでしょう。虫歯や歯周病、歯の根の先に膿がたまる歯根嚢胞など、歯が原因で起こる痛みは非常に多く、実際に三叉神経痛の患者さんの多くが、最初に歯科を受診すると言われています。しかし、歯科でいくら治療をしても痛みが治まらない場合、それは歯が原因ではない、別の病気の可能性を考える必要があります。その代表格が「三叉神経痛」と「非定型歯痛」です。この二つの病気は、症状が似ているようで、その特徴には明確な違いがあります。「三叉神経痛」の痛みは、非常に特徴的です。その痛みは「発作的」かつ「電撃様」と表現され、まるで電気が走るような、あるいは雷に打たれたような、鋭く突き刺すような激痛が、数秒から長くても数十秒というごく短時間だけ起こります。そして、食事や歯磨き、洗顔、会話といった特定の動作が引き金(トリガー)となって、痛みが誘発されることがほとんどです。痛みがない時は、全く無症状であるというのも大きな特徴です。一方、「非定型歯痛」は、その名の通り「典型的ではない歯の痛み」で、歯科的には何ら異常がないにもかかわらず、歯や歯茎に持続的な痛みを感じる病気です。その痛みは、三叉神経痛のような鋭い発作的なものではなく、「ズキズキ」「ジンジン」「疼くような」といった鈍い痛みが、一日中、あるいは長時間にわたって続くのが特徴です。特定のトリガー動作はなく、むしろ何もしなくても常に痛みが存在します。痛みの場所が移動したり、天候やストレスによって痛みの強さが変動したりすることもあります。原因はまだ完全には解明されていませんが、痛みをコントロールする脳の神経回路の機能障害が関与していると考えられており、一種の神経障害性疼痛(神経の痛み)に分類されます。治療は、三環系抗うつ薬などが用いられることが多く、主にペインクリニックや、口腔顔面痛を専門とする歯科、心療内科などが診療科となります。痛みの性質(発作的か持続的か)をよく観察することが、この二つの病気を見分けるための重要な鍵となります。
歯の痛みと違う?三叉神経痛と非定型歯痛の見分け方