今回は呼吸器内科を専門とする医師に、見過ごされがちな大人のRSウイルス感染症についてお話を伺いました。先生、大人がRSウイルスに感染した場合、普通の風邪と見分けるポイントはありますか。「正直に言うと、症状だけで完全に見分けるのは非常に困難です。鼻水、喉の痛み、咳、発熱といった症状は、他の多くの風邪ウイルスと共通しているからです。しかし、診断のヒントになるいくつかの特徴はあります。一つは、痰の絡む湿った咳が、他の症状が治まった後も二週間以上しつこく続く場合です。もう一つは、ゼーゼー、ヒューヒューといった喘鳴(ぜんめい)が聞こえる場合です。これは気管支が狭くなっているサインで、RSウイルス感染症でよく見られる所見です。また、最も重要な手がかりは、身近な、特に子供の感染歴です。一ヶ月以内に、お子さんやお孫さんがひどい咳を伴う風邪をひいていなかったか、という問診は診断の上で非常に役立ちます」診断はどのように行われるのですか。「近年、インフルエンザのように鼻の奥の粘液を綿棒で採取して調べる迅速診断キットが普及してきました。これにより、外来で十五分程度で診断がつくようになり、以前よりも診断される大人の患者さんは増えています。ただし、この検査はウイルス量が多い発症初期でないと陽性になりにくく、保険適用も限られているため、全てのケースで行われるわけではありません」治療法について教えてください。「残念ながら、RSウイルスそのものに直接効く抗ウイルス薬はありません。したがって、治療は症状を和らげる対症療法が中心となります。咳がひどければ咳止めや去痰薬、気管支拡張薬を、熱が高ければ解熱鎮痛剤を処方します。細菌による二次感染が疑われる場合には、抗菌薬を使用することもあります。基本的には、ご自身の免疫力でウイルスが排除されるのを待つことになります。だからこそ、十分な休養と水分補給が何より大切なのです」最後に、どのような場合に注意が必要ですか。「高齢の方、喘息やCOPDなどの呼吸器疾患、心疾患をお持ちの方は、重症化して肺炎に至るリスクが高いことを知っておいてください。息苦しさや呼吸困難、高熱が続くといった症状があれば、迷わず医療機関を受診してください。大人のRSウイルスは、基礎疾患を持つ方にとっては決して『ただの風邪』ではないのです」。