毎年秋になると話題にのぼるインフルエンザの予防接種。「打っておけば安心」と漠然と考えている人も多いかもしれませんが、そのワクチンが持つ「効果」には、実は二つの重要な側面があることをご存知でしょうか。それを正しく理解することが、予防接種の本当の価値を知る第一歩となります。一つ目の効果は「発症を予防する」力です。ワクチンを接種することで、体内にインフルエンザウイルスに対する抗体が作られます。この抗体が、ウイルスが体内に侵入してきた際にいち早く攻撃し、感染そのものを防いだり、感染しても症状が出ないように抑えたりする働きをします。研究によれば、この発症予防効果は成人の場合、約六十パーセント程度とされています。つまり、ワクチンを接種したからといって、誰もが百パーセント発症を防げるわけではないのです。この数字だけを見ると、「効果はそれほど高くないのでは?」と感じるかもしれません。しかし、ここで重要になるのが二つ目の、そして最大の効果である「重症化を予防する」力です。インフルエンザの本当に恐ろしい点は、高熱や関節痛といった症状そのものよりも、肺炎や気管支炎、さらには急性脳症といった命に関わる重篤な合併症を引き起こすリスクがあることです。特に、体力や免疫力が弱い乳幼児や高齢者、持病を持つ人にとっては、このリスクは決して無視できません。インフルエンザワクチンは、たとえ発症してしまったとしても、これらの重篤な合併症を防ぎ、入院や死亡の危険性を大幅に減少させるという、非常に重要な効果を持っています。研究では、高齢者の死亡リスクを八十パーセント以上も減少させたという報告もあります。つまり、インフルエンザワクチンは、「かからないためのお守り」であると同時に、万が一かかってしまった時のための「命を守る保険」という二重の役割を担っているのです。この重症化予防という絶大なメリットこそが、国や多くの医療機関が毎年接種を推奨する最大の理由なのです。