インフルエンザの予防接種を受けた後、注射した腕が赤く腫れたり、痛みを感じたり、熱っぽくなったりすることがあります。こうした症状が出ると、「もしかして体に合わなかったのでは?」と不安に感じる人もいるかもしれません。しかし、実はこれらの症状の多くは、ワクチンが体内で正常に働き始めたことを示す「良い知らせ」なのです。これらの症状は「副反応」と呼ばれますが、体が異物であるワクチンの成分に対して、きちんと免疫反応を起こしている証拠と捉えることができます。私たちの体は、ワクチンの成分が注射されると、それを「敵」と認識し、その場所に免疫細胞を呼び集めて攻撃を開始します。この時、血管が拡張して血流が増えるため、皮膚が赤くなったり、熱を持ったりします。また、免疫細胞が放出する様々な化学物質が、知覚神経を刺激して痛みを引き起こします。つまり、腕の腫れや痛みは、免疫システムが活発に活動し、ウイルスと戦う準備を整えている現場で起きている、正常な炎症反応なのです。一般的に、これらの局所的な副反応は、接種当日から翌日にかけて現れることが多く、二日から三日程度で自然に治まります。痛みが気になる場合は、無理に動かさず安静にしたり、清潔な濡れタオルなどで冷やしたりすると和らぐことがあります。また、接種後に微熱や頭痛、倦怠感といった全身性の副反応が出ることがありますが、これも免疫システムが働いている過程で生じるもので、通常は一日か二日で軽快します。もちろん、ごく稀にですが、重い副反応が起こる可能性もゼロではありません。接種後三十分以内に起こる、じんましんや呼吸困難、血圧低下などを伴う激しいアレルギー反応である「アナフィラキシー」がその代表です。しかし、その頻度は百万人に一人程度と極めて稀であり、医療機関では万が一に備えてすぐに対応できる体制を整えています。過度に恐れる必要はありません。予防接種後の多少の不快な症状は、未来の健康を守るための体からの頼もしい応答なのだと理解し、落ち着いて経過を見守ることが大切です。