営業職として働く田中さん(仮名)は、長年、繰り返す口内炎に悩まされていました。大きな商談やプレゼンの前など、強いストレスがかかる時期になると決まって口の中に白いものができ、仕事中の会話にも支障をきたすほどでした。その度に田中さんは近所の歯科医院を受診し、塗り薬を処方してもらっていました。薬を塗れば数日で痛みは和らぎ、口内炎も消えていくのですが、問題は根本的な解決には至らないことでした。しばらくすると、また別の場所に新しい口内炎ができる、という繰り返しだったのです。歯科の先生からは、疲れやストレスが原因でしょう、と言われるばかりで、田中さん自身も体質だから仕方がないと半ば諦めていました。そんなある日、同僚との雑談中に口内炎の話題が出ました。田中さんが自身の悩みを打ち明けると、その同僚は「もしかしたら、何か栄養が足りていないのかも。一度、内科で相談してみたら?」とアドバイスをくれました。口内炎で内科、というのは田中さんにとって全く思いつかない視点でした。しかし、藁にもすがる思いで、かかりつけの内科医を訪ねてみることにしました。医師にこれまでの経緯を詳しく話すと、医師は丁寧な問診の後、血液検査を提案しました。数日後に出た検査結果を見て、医師は言いました。「田中さん、鉄分とビタミンB群が不足しているようです。これが、口内炎が繰り返しできてしまう一因かもしれません」。いわゆる鉄欠乏性貧血の状態が、口の粘膜を弱くしていた可能性があったのです。田中さんは、鉄剤とビタミン剤を処方され、食生活の改善指導も受けました。薬を飲み始めて一ヶ月が経つ頃には、以前のような疲労感が軽減していることに気づきました。そして何より、あれだけ頻繁にできていた口内炎が、ぱったりとできなくなったのです。この経験を通じて、田中さんは口内炎が単なる口の中の問題ではなく、体全体からのサインである場合もあるのだと痛感しました。もし、歯科治療で改善しない、繰り返す口内炎に悩んでいるのなら、一度、内科的な視点から原因を探ってみることも有効な選択肢の一つなのかもしれません。