「突発性発疹の感染経路が家族の唾液なら、キスや食器の共用をやめれば感染を防げるのでは?」そう考える保護者の方もいるかもしれません。確かに、理論上は感染のリスクを減らすことは可能でしょう。しかし、ここで一度立ち止まって考えてみたいのが、「突発性発疹は、果たしてそこまでして防ぐべき病気なのだろうか」という点です。結論から言うと、ほとんどの小児科医は、突発性発疹の感染を過度に恐れたり、無理に予防したりする必要はないと考えています。その理由はいくつかあります。まず、突発性発疹は、ほとんどすべての子供が二歳頃までに経験する、いわば「成長の過程で誰もが通る道」のような病気だからです。感染力が非常に強く、家族との日常的な接触を完全に断つことは非現実的であり、いつかはどこかで感染する可能性が極めて高いのです。次に、この病気は基本的に予後が良好である、という点が挙げられます。突然の高熱には驚かされますが、熱が下がると同時に発疹が出て、比較的元気になることがほとんどです。まれに熱性けいれんを合併することはありますが、重篤な後遺症を残すことは極めて稀な、安全な病気の一つとされています。むしろ、この病気を経験することで、赤ちゃんはヒトヘルペスウイルスに対する終生免疫を獲得することができます。もし、乳幼児期に感染せずに大人になってから初めて感染すると、症状が重くなったり、肝機能障害などを起こしたりする可能性も指摘されています。つまり、免疫を獲得するには、子供のうちにかかっておく方がむしろ安全だと考えられているのです。初めての高熱は、親にとっては心配で辛いものですが、それは同時に赤ちゃんの免疫システムが初めて本格的な戦いを経験し、体を守る力を学んでいる大切な時間でもあります。過剰な予防で神経質になるよりも、どっしりと構え、いざ発熱した時に慌てず適切に対処できるよう、病気の知識を深めておくことの方が、親子にとって有益だと言えるでしょう。
突発性発疹は防ぐべき病気なのか