マイコプラズマ肺炎は、その名の通り「肺炎」が主たる病態ですが、この病原体の本当に厄介なところは、肺だけでなく、全身の様々な臓器に影響を及ぼし、多彩な合併症を引き起こす可能性がある点です。多くの場合は咳などの呼吸器症状だけで治癒しますが、稀に、重篤な合併症に至るケースもあり、「たかが咳の病気」と侮ることはできません。最も多く見られる合併症は、皮膚に現れる症状です。全身に様々な形の発疹が出ることは珍しくなく、特に「多形滲出性紅斑(たけいしんしゅつせいこうはん)」と呼ばれる、盛り上がった赤い発疹は、マイコプラズマ感染症で比較的よく見られる皮膚症状です。重症化すると、唇や口の中、目の粘膜、陰部などに水ぶくれやただれが広がる、スティーブンス・ジョンソン症候群という危険な状態に至ることもあります。また、呼吸器系では、中耳炎や副鼻腔炎を併発することがあります。しつこい咳に加え、耳の痛みや鼻づまりといった症状が現れた場合は注意が必要です。さらに、ウイルスが中枢神経系にまで及ぶと、無菌性髄膜炎や脳炎といった、深刻な合併症を引き起こす可能性があります。激しい頭痛や嘔吐、意識障害、けいれんといった症状が見られた場合は、極めて危険なサインです。心臓に炎症が及べば心筋炎や心膜炎、肝臓に及べば肝機能障害、血液系に及べば溶血性貧血や血小板減少症など、まさに全身のあらゆる部分に合併症が起こり得るのです。これらの合併症は、免疫システムがマイコプラズマに反応する過程で、誤って自分自身の組織を攻撃してしまうことで引き起こされると考えられています。もちろん、これらの重篤な合併症が起こる頻度は決して高くはありません。しかし、ゼロではないという事実を、私たちは知っておくべきです。しつこい咳という初期のサインを見逃さず、早期に適切な治療を受けることが、こうした予期せぬ合併症のリスクを最小限に抑える上で、何よりも重要になるのです。
咳だけじゃないマイコプラズマの怖い合併症