口内炎というと、口の中だけのトラブルと考えがちですが、実は体全体の健康状態を映し出す鏡のような存在でもあります。そのため、歯科や耳鼻咽喉科だけでなく、皮膚科や内科が診療の選択肢となるケースも少なくありません。では、どのような場合にこれらの科が関わってくるのでしょうか。まず皮膚科が関係する理由ですが、口の中の粘膜は、体の表面を覆う皮膚が内側に入り込んだものと構造的に非常に似ています。そのため、皮膚に症状が現れる病気の中には、口の粘膜にも同様の症状を引き起こすものが数多く存在するのです。例えば、ウイルス感染症である手足口病やヘルペス性口内炎は、口の中だけでなく手足や唇の周りにも水ぶくれや発疹ができます。また、天疱瘡や類天疱瘡といった自己免疫疾患では、皮膚だけでなく口腔粘膜にも水疱やただれが生じることがあります。このように、皮膚と口の中に同時に症状が出ている場合は、皮膚科を受診するのが最も的確な診断への近道となります。次に内科が選択肢になるのは、口内炎が全身性の病気の一症状として現れている場合です。代表的な例がベーチェット病で、これは口腔粘膜のアフタ性潰瘍、皮膚症状、眼症状、外陰部潰瘍を主症状とする原因不明の難病です。繰り返しできる治りにくい口内炎が、この病気の初発症状であることも少なくありません。また、クローン病や潰瘍性大腸炎といった炎症性腸疾患でも、栄養吸収の障害や免疫異常から口内炎が高頻度に見られます。さらに、単純なビタミン不足や鉄欠乏性貧血が原因で粘膜が弱くなり、口内炎を繰り返すこともあります。これらの場合は、根本原因を治療する必要があるため、消化器内科や膠原病内科といった専門的な内科での精査が不可欠です。このように、口内炎は口だけの問題と侮ってはいけません。治りにくい、繰り返す、あるいは他の全身症状を伴う場合は、皮膚科や内科という選択肢も念頭に置き、多角的な視点で原因を探ることが重要になるのです。